大阪地方裁判所 平成4年(わ)3615号 判決 1993年6月08日
本籍
徳島県板野郡上板町高瀬七二〇番地の三
住居
大阪府寝屋川市御幸東町三番一二号
人夫供給業
福田正之祐
大正一五年一〇月一〇日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官田中素子出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金一八〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、大阪市西成区萩之茶屋一丁目五番八号において、「旭鉄筋工業所」の商号で人夫供給業を営んでいた者であるが、自己の所得税を免れようと考え、
第一 昭和六三年分の総所得金額が四七三五万四一九三円であった(別紙総所得金額計算書(一)、修正貸借対照表(一)及び修正損益計算書(一)参照)のにかかわらず、売上の一部を除外するなどし、ことさら過少な所得金額を記載した所得税確定申告書を作成して、その所得の一部を秘匿したうえ、平成元年三月一三日、大阪府枚方市大垣内町二丁目九番九号所在の所轄枚方税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が五四三万六七一七円で、これに対する所得税額が五四万二二〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法廷納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一九二八万七三〇〇円と右申告税額との差額一八七四万五一〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れ、
第二 平成元年分の総所得金額が六八〇八万三八五七円であった(別紙総所得金額計算書(二)、修正貸借対照表(二)及び修正損益計算書(二)参照)のにかかわらず、前同様の行為によりその所得の一部を秘匿したうえ、平成二年三月一四日、前記枚方税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が五一三万七〇五八円で、これに対する所得税額が四六万〇一〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二九六三万七六〇〇円と右申告税額との差額二九一七万七五〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れ、
第三 平成二年分の総所得金額が八四六〇万一三〇四円であった(別紙総所得金額計算書(三)、修正貸借対照表(三)及び修正損益計算書(三)参照)のにかかわらず、前同様の行為によりその所得の一部を秘匿したうえ、平成三年三月一五日、前記枚方税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が五四五万三〇六一円で、これに対する所得税額が四七万九五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三七八〇万三九〇〇円と右申告税額との差額三七三二万四四〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れた。
(証拠の標目)
注・証拠末尾の括弧内の漢数字は、証拠等関係カード(請求者等検察官)の証拠請求番号を示している。
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の
(1) 検察官に対する供述調書(七四)
(2) 大蔵事務官に対する平成三年九月四日付(五七)、同月一八日付(五八)、同年一一月二〇日付(六〇)、同年一二月四日付(六一)、同月一一日付(六二)、平成四年一月一四日付(六三)、同月二一日付(二通)(六四、六五)、同月二九日付(二通)(六七、六八)、同年二月四日付(六九)、同月五日付(二通)(七〇、七一)、同月一五日付(七二)及び同月二六日付(七三)各質問てん末書
一 福田益子の大蔵事務官に対する質問てん末書(五二)
一 田中克美の大蔵事務官に対する質問てん末書二通(五四、五五)
一 沈洵の大蔵事務官に対する質問てん末書(五六)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書三四通(記録第一九-四号(八)、同第一九-七号(九)、同第一九-五号(一〇)、同第一九-六号(一一)、同第一九-八六号(一二)、同第一九-九号(一四)、同第一九-一三号(一五)、同第一九-一一号(一六)、同第一九-一二号(一七)、同第一九-一四号(一八)、同第一九-一七号(一九)、同第一九-一五号(二〇)、同第一九-一八号(二一)、同第一九-二一号(二二)、同第一九-一九号(二三)、同第一九-二〇号(二四)、同第一九-二二(二五)、同第一九-二三号(二六)、同第一九-二四号(二七)、同第一九-三六号(二八)、同第一九-二五号(二九)、同第一九-二六号(三〇)、同第一九-三二号(三一)、同第一九-三四号(三四)、同第一九-二八号(三五)、同第一九-二九号(三六)、同第一九-三七号(三九)、同第一九-四七号(四二)、同第一九-四〇号(四三)、同第一九-四一号(四四)、同第一九-四二号(四五)、同第一九-四三号(四六)、同第一九-四六号(四九)、同第一九-六七号(五〇))
一 検察事務官作成の捜査報告書(七)
判示第一及び第二の各事実について
一 被告人の大蔵事務官に対する平成三年一一月一三日付質問てん末書(五九)
一 鄭二全の大蔵事務官に対する質問てん末書(五三)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第一九-八号)(一三)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第一九-三八号)(四〇)
一 大蔵事務官作成の証明書(平成元年三月一三日に申告した所得税申告書写についてのもの)(四)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六三年一月一日から同年一二月三一日までの期間のもの)(一)
判示第二及び第三の各事実について
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第一九-四五号)(四八)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官作成の査察官調査書三通(記録第一九-二七号(三二)、同第一九-三三号(三三)、同第一九-六八号(五一))
一 大蔵事務官作成の証明書(平成二年三月一四日に申告した所得税申告書写についてのもの)(五)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの期間のもの)(二)
判示第三の事実について
一 大蔵事務官作成の査察官調査書四通(記録第一九-三一号(三七)、同第一九-三〇号(三八)、同第一九-三九号(四一)、同第一九-四四号(四七))
一 大蔵事務官作成の証明書(平成三年三月一五日に申告した所得税申告書写についてのもの)(六)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成二年一月一日から同年一二月三一日までの期間のもの)(三)
(法令の適用)
被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、各罪につき情状により同条二項を適用し、罰金はそれぞれその免れた所得税の額に相当する金額以下とし、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一八〇〇万円に処し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
(量刑の理由)
本件は、人夫供給業を営んでいた被告人において、三年度にわたり、合計八五二四万円余の所得税を脱税した事案であり、脱税額としても多額であるうえ、そのほ脱率も約九八・三パーセントと極めて高率の事案である。そして、被告人は、本件の起訴にかかる昭和六三年度から確定申告するようになったものの、「税金を払うのがいや」で、自己の株式投資や事業等のための資金も留保しようと脱税を企図し、税理士に売上や経費等について虚偽の金額を報告し、また、家賃等の不動産収入は秘匿するなどして、ことさら過少な所得金額でのいわゆるつまみ申告をしたもので、動機面でしん酌すべき点はない(なお、被告人は、脱税の動機として、配偶者を亡くした娘らのための資産確保の目的もあったとしているが、実際にその娘らのために保留された資産はないことが窺われる)ばかりか、その手口、方法も大胆というべきものであって、納税義務に著しく違反する犯行である。したがって、これらの点からすると、被告人の刑事責任はかなり重いというべきである。
しかし、他方、脱税の手口そのものは、比較的単純なものであり、特段巧妙、悪質とまではいえず、また、被告人は、本件犯行の摘発後、事実関係を認めて、修正申告し、既に本件ほ脱にかかる所得税本税、附帯税及び事業税、他方税等の大半を納税済みで、残余の額についても今後分割納付を予定しており、さらに、現在、記帳関係を改め、法定でも、今後正確に申告して納税義務を果たす旨述べるなど、反省の態度が認められることのほか、事業における被告人の立場、その家族の状況等考慮すべき事情もある。
そこで、これら有利不利一切の事情を考え、被告人を主文掲記の懲役及び罰金刑に処したうえ、懲役刑についてはその刑の執行を猶予することにする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 竹田隆)
総所得金額計算書(一)
<省略>
修正貸借対照表(一)
<省略>
修正損益計算書(一)
<省略>
総所得金額計算書(二)
<省略>
修正貸借対照表(二)
<省略>
修正損益計算書(二)
<省略>
総所得金額計算書(三)
<省略>
修正貸借対照表(三)
<省略>
修正損益計算書(三)
<省略>
税額計算書
<省略>